第45話「うたって! プリン!」と、1998年5月21日の記憶。

第1-82話(カントー編)

初夏の風が心地よく、日没の時間がずいぶんと遅くなったことを実感し始めた5月下旬。
木曜日の夕方6時半、僕たちはブラウン管の前で、誰かに自分の表現を届けたいと願う小さなクリエイターの「孤独と怒り」に、笑いながらもどこか共感していた。


第44話「パラスとパラセクト」と、1998年5月14日の記憶。
5月中旬。初夏の風が心地よく吹き抜け、教室の窓を開け放つのが日常になった頃。木曜日の夕方6時半、僕たちはブラウン管の前で、大人の過保護な「やらせ」と、臆病な小さな命が自分の殻を破る瞬間に笑い、そして応援していた。あの日、僕たちが受け取ったも…
第46話「ふっかつ!? かせきポケモン!」と、1998年5月28日の記憶。
5月末。初夏の風が心地よく、日もずいぶんと長くなってきた木曜日の夕暮れ。ブラウン管の前で、僕たちは古代のロマンと、完全にコントロールを離れていく「圧倒的な力の恐ろしさ」に息を呑んでいた。あの日、僕たちが受け取ったもの第46話は、人間の探求心…

あの日、僕たちが受け取ったもの

第45話は、アニポケにおける名物キャラクター・プリンの初登場回であり、「表現者の承認欲求」と「ディスコミュニケーション」をコミカルに描いた傑作である。歌うことが大好きなプリンだが、その歌声には強力な催眠作用があり、聴く者を例外なく深い眠りに誘ってしまう。「自分の歌を最後まで聴いてほしい」という純粋な願いは、自身の持つ特性によって絶対に叶えられないという、ギリシャ悲劇のようなジレンマを抱えているのだ。

物語の舞台となる「ネオンタウン」の設定も極めて秀逸である。そこは24時間眠らない不夜城であり、不眠によるストレスで街中の人々がイライラし、争いが絶えない「現代社会の病理」のメタファーであった。サトシたちはプリンの歌声を街中に響き渡らせることで、街の人々に強制的な「休息」を与え、平和を取り戻す。プリンの歌は、眠れない現代社会にとって何よりも必要な救済であったのだ。

しかし、街を救った英雄であるはずのプリンは、誰一人として自分の歌を最後まで起きて聴いてくれなかったことに激怒し、眠っているサトシたちの顔に油性マジックで落書きをして去っていく。社会の役に立つことよりも、「自分という個人の表現(歌)を認めてほしい」という強烈なエゴと承認欲求。この日から、自分の歌を聴いてくれる観客を求めてサトシたちを追い続けるプリンの、果てしない旅が始まった。その姿は、SNSで「いいね」を求めて彷徨う現代の僕たち自身の姿とも、どこか重なって見えるのである。

🕰️ 1998年5月21日 のタイムカプセル

あの日、僕たちが生きていた世界はどんな空気に満ちていただろうか。

当日の重大ニュース

  • インドネシアのスハルト大統領が辞任:まさにこの日、1998年5月21日。アジア通貨危機による経済混乱と大規模な暴動(ジャカルタ暴動)の責任を取る形で、32年間にわたってインドネシアに君臨したスハルト大統領が辞任を発表。アジアの歴史が大きく動いた歴史的な瞬間であった [1]。
  • G8バーミンガム・サミットの閉幕:直前の1998年5月17日、イギリスのバーミンガムで開催されていた主要国首脳会議(サミット)が閉幕。アジア通貨危機への対応や、インドの核実験に対する非難声明などが採択され、激動の国際情勢が議論されていた [2]。
  • W杯フランス大会に向けたサッカー熱:翌月に開幕するサッカー・フランスワールドカップに向け、日本代表のメンバー選考が佳境を迎えていた。この約1週間後(6月2日)にスイスのニヨンで発表される「外れるのはカズ」という衝撃的なニュースに向け、日本中の期待と緊張が高まっていた時期である [3]。

今週の音楽チャート(トップ3)

  • 1位:ピンク スパイダー/hide with Spread Beaver
  • 2位:誘惑/GLAY
  • 3位:SOUL LOVE/GLAY
    (1998年5月25日付オリコンチャートより)
    5月2日に急逝したhideの遺作「ピンク スパイダー」が、深い悲しみと圧倒的なエネルギーを伴って首位を獲得し、ミリオンセラーを記録。GLAYの2枚同時リリースの大ヒット曲がそれに続き、J-POP黄金期の特異で忘れられない春のチャートを形成していた [4]。

街で流行っていたもの

  • スケルトンデザインの爆発的流行:5月上旬にAppleが初代「iMac」を発表したことに呼応し、ゲームボーイ、PHS、時計、文房具に至るまで、中身が透けて見える「スケルトン(半透明)仕様」が若者の間で最もクールなデザインとして大流行していく。
  • プリント倶楽部(プリクラ)の進化:プリクラのブームが成熟し、「プリント倶楽部2」や様々なフレーム、全身が撮れる機種などがゲームセンターに乱立。落書き機能が充実し始め、プリンのように顔に落書きをする(スタンプを押す)遊びが女子高生の間で定番化していた。

あの日の続きを、もう一度。

眠らない街を救った子守唄と、最後まで聴いてもらえなかった怒りの落書き。承認欲求を胸に秘めた、小さな表現者の果てしない旅の始まり。大人になった今、あの日のネオンタウンでのコミカルな騒動を、もう一度見つめ直してみませんか。
[公式配信サイトで第45話を視聴する(Amazon Prime Video等)]


Sources(出典リスト)

[1] スハルト – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%8F%E3%83%AB%E3%83%88
[2] 第24回主要国首脳会議 – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC24%E5%9B%9E%E4%B8%BB%E8%A6%81%E5%9B%BD%E9%A6%96%E8%84%B3%E4%BC%9A%E8%AD%B0
[3] 1998年の日本 – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/1998%E5%B9%B4%E3%81%AE%E6%97%A5%E6%9C%AC
[4] Template:オリコン週間シングルチャート第1位 1998年 – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/Template:%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%B3%E9%80%B1%E9%96%93%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%88%E7%AC%AC1%E4%BD%8D_1998%E5%B9%B4

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