セミの鳴き声が本格的に響き始め、夏休みがすぐそこまで近づいていた7月上旬の木曜日。
「ひなまつり」に続いて放送されたのは、真夏に鯉のぼりがはためく「こどもの日」の物語だった。季節外れの放送を少し不思議に思いながらも、僕たちはブラウン管の前で、愛すべき悪役が見せた不器用な優しさに胸を打たれていた。


あの日、僕たちが受け取ったもの
第53話は、本来であれば5月5日の「こどもの日」付近に放送される予定だったが、ポケモンショックによる長期休止の影響で、前話の「ひなまつり」と共に真夏の1時間スペシャルとして放送されたメタ的な事情を持つエピソードである。しかし、その内容は「子供の純粋な夢と、それを守ろうとする大人(悪役)の矜持」を描いた非常に人間臭く温かい名作であった。
保育園児のマナブは、かつて自分を助けてくれた「回転キックをする野生のニャース」をヒーローとして慕っていた。ひょんなことからマナブに本物のヒーローだと勘違いされてしまったロケット団のニャースは、最初は戸惑いながらも「子供の夢を壊してはいけない」と、ヒーローのふりをして芝居を打ち続ける。普段はピカチュウを奪うために卑劣な手段を使う彼らが、一人の少年の純粋な眼差しを前にして、悪役になりきれずに葛藤する姿は、たまらなく愛おしい。
物語の終盤、マナブに巨大な岩が落下してきた絶体絶命のピンチに、本物の「回転キックをするニャース」が現れて彼を救い出す。ロケット団のニャースは偽物だったが、マナブの夢は決して嘘ではなかったのだ。季節外れの鯉のぼりの下で、大きくなったらあのニャースをパートナーにすると誓うマナブと、それを優しい目で見守るムサシとコジロウ。悪役すらも子供の夢の庇護者となるこの優しい世界は、真夏の夜の僕たちに、季節を超えた温かい余韻を残してくれた。
🕰️ 1998年7月9日 のタイムカプセル
あの日、僕たちが生きていた世界はどんな空気に満ちていただろうか。
当日の重大ニュース
- プロ野球・ロッテの連敗が18でストップ:まさにこの日、1998年7月9日。千葉ロッテマリーンズがオリックスに勝利し、日本プロ野球ワースト記録となる「18連敗」に終止符を打った。エース小宮山悟の完投勝利に、日本中が安堵と感動に包まれた [1]。
- 第18回参議院議員通常選挙と橋本首相退陣:この放送の3日後である7月12日に参院選の投開票が行われ、自民党が歴史的な大敗を喫する。これにより橋本龍太郎首相が退陣を表明し、平成不況の波に政治が飲み込まれていく激動の週末であった [2]。
- W杯フランス大会の決勝戦迫る:同じく7月12日、サッカー・ワールドカップの決勝戦(フランス対ブラジル)が行われ、ジダン擁する開催国フランスが初優勝を飾る。約1ヶ月にわたる世界的なサッカーの熱狂が、フィナーレを迎えようとしていた [3]。
今週の音楽チャート(トップ3)
- 1位:ALIVE/SPEED
- 2位:HOT LIMIT/T.M.Revolution
- 3位:There will be love there -愛のある場所-/the brilliant green
(1998年7月13日付オリコンチャートより推計)
映画の主題歌となったSPEEDの壮大なバラードが首位を獲得。T.M.Revolutionの突き抜けたサマーチューンや、ブリグリの気怠くも美しいロックが上位に並び、J-POP黄金期の夏が本格的な熱気を帯びていた [4]。
街で流行っていたもの
- 映画『ミュウツーの逆襲』公開直前の熱気:この約1週間後である7月18日、ポケモン映画第1作が公開を控えていた。前売り券でもらえる「幻のポケモン・ミュウ」の引換券を握りしめ、子供たちの期待は最高潮に達していた。
- 真夏のこどもの日というカオス:ポケモンショックの影響で季節感が完全にズレた放送となったが、当時の子供たちはそれを「仕方ないこと」として受け入れ、むしろ放送が続いていること自体の喜びに浸っていた。
あの日の続きを、もう一度。
子供の夢を壊すまいと、必死にヒーローの芝居を打ったニャース。そして、悪役になりきれなかった彼らが見せた不器用な優しさ。大人になった今、あの日の季節外れの鯉のぼりの下でのドラマを、もう一度見つめ直してみませんか。
[公式配信サイトで第53話を視聴する(Amazon Prime Video等)]
Sources(出典リスト)
[1] プロ野球における連敗記録 – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E9%87%8E%E7%90%83%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E9%80%A3%E6%95%97%E8%A8%98%E9%8C%B2
[2] 第18回参議院議員通常選挙 – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC18%E5%9B%9E%E5%8F%82%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%80%9A%E5%B8%B8%E9%81%B8%E6%8C%99
[3] 1998 FIFAワールドカップ – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/1998_FIFA%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%97
[4] Template:オリコン週間シングルチャート第1位 1998年 – Wikipedia: https://ja.wikipedia.org/wiki/Template:%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%B3%E9%80%B1%E9%96%93%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%81%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%83%88%E7%AC%AC1%E4%BD%8D_1998%E5%B9%B4


コメント